1987年に出版された村上龍さんの政治経済小説 『愛と幻想のファシズム』。 私の好きな本の1つです。 26年も前に最初に読んだ時は、 稲妻に打たれたような衝撃を感じながらも 夢中になって「上」「下」巻を一気に読み、 その後も何度か再読しました。 この本の凄さは、 近未来の日本の姿を見通していたことにあると 思っています。 簡単なあらすじ↓↓↓ カナダで狩猟生活をしていた主人公の鈴原冬二は、 日本への帰国途中に立ち寄ったアラスカの酒場で ゼロという愛称の日本人と出会い、 帰国後にゼロの誘いで政治結社「狩猟社」を結成。 独裁者として大衆の支持を得ながら 平和ボケした日本で勢力をひろげていき、 抵抗勢力を叩きつぶし、 多国籍で巨大な企業集団「ザ・セブン」による 日本の属国化に対抗すべく行動していく…というストーリー。 主人公の鈴原冬二は、適者生存サバイバルなハンター。 社会のシステムの中で奴隷のように生きる人たちを 「弱者」として、そんな弱者を排除して 強者の社会をつくろうとしますが、 そのプロセスにおいては、 冬二自身がシステム化せざるをえず、 弱者を排除すると言うものの弱者がいないと成り立たず、 こんなはずではなかった…という自己矛盾を抱えます。 「支配者は、人民の願望の化身なのです。 その役目を果たせないと、 支配者はイケニエとして殺されてしまいます」 …というセリフもあるんですが、まさに終末の時代に 無意識に救世主のようなリーダーを求める大衆心理と、 そこに現われ支持されていく カリスマ性の強いリーダーという構図。 「幸福は金では買えないというのは嘘だ、 金持ち達の心や社会が歪んでいるというのも嘘だ、 貧しいけれど小さな幸福というのも嘘だ、 貧しい人間には快楽も情報も与えられない」 男性視点で極端に描いたフィクションでありつつ、 ファシズムを肯定するわけでもなく、 政治や経済といった社会のシステムの不条理や矛盾…。 小説の結末としても曖昧で切ない終わり方をしているので、 1人1人に向けてリアルなメッセージを 投げかけられているように思います。 ちなみに私は、 主人公の相棒で登場するゼロが好きです^^ 繊細な芸術家タイプでダメダメなキャラですが、 このダメダメな感じが魅力(爆) 周囲の人たちが冬二をカリスマとして 崇め惹かれていくのに対し、 冬二とは対等に付き合う親友。 この小説、社会的な大きなテーマの中で、 実は主人公とゼロという対照的な2人が互いの違いに 惹かれあって友情を育んでいるとも言えますし、 主人公の中にもゼロの中にも、 1人の人の中にある葛藤、対立、対極をどう昇華するか?と いったメッセージも含まれているような気がします。 26年前の本で多少の違和感はありますが、 対極するものが統合する今年だからこそのオススメで、 村上龍さんの表現する世界がお好きな方はぜひ!
by divine-msg
| 2013-07-18 12:00
| 心理学
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